朝起きて両腕の状態を確かめてみたが、なんとなくくすぐったいような誰かが何か触っているようなそんな気がした。しかし、この状態が長く続く訳でもなく、あるときは全く問題ない。まだ窒素が中にはいってるのだろうか。
昨日の経過を一応 Dive House に知らせておかねばと思い、Dive House にいた一人に自分が減圧症と診断されたこと、チェンバーに5時間はいってきたこと、今日もう一度診察を受けなければいけないことなどを伝えた。けいこさんが日本人ダイバーたちにいろいろと説明をしていて、忙しそうだったので、このときに挨拶するのはタイミング的に悪かろうと思い、そのままかえることにした。
いったんホテルの部屋にかえって、さっさと朝ご飯を食べなければいけないと10時の予約に間に合わないことに気づき、きた道を引き返した。途中でホテルのプールサイドのところでプール実習のためにひかえていた Dive House のスタッフの一人から、「お前が減圧症になったと聞いた、大丈夫か」と聞いてきた。どうやら Dive House のスタッフの間で自分が減圧症にかかったことが広まっているようだ。とりあえず今のところは大丈夫だが、もう一度今日医者にあってみてもらわないと何ともいえないというと、彼が「チェンバーの中は飛行機の中みたいだと思わないか」と聞いてきた。どうやら彼も入ったことがあるらしい。実際に、チェンバーの中は飲み物と映画リストがふるまわれるし、むしろ飛行機よりも一人当たりの占有スペースは広いくらいで待遇はいいといえる。たしかにそうだが、自分はむしろ潜水艦や宇宙ステーションみたいだと思ったと返し、彼にチェンバーに入ったときの様子を聞いてみた。彼の場合は、肩の関節がおかしくなったらしく、全部で4回チェンバーに入り、今では何ともなくなっている、請求書の額に圧倒されたが、プロのダイバーとして保険が利いたので、彼が払った額は60ドルくらいですんだということなどを教えてくれた。


朝ご飯を Dive House 横のレストランで食べた後、タクシーに乗り、病院へ向かった。病院に入ると昨日のウォリーがいた。彼はピンピンしている。彼は元気そうに彼の治療は終わったといい、今保険会社との手続きをしているところだという。彼に昨日のチェンバーは2回目だったのかと聞くと、そうだと答え、自分に対してどのくらい伝えたらよいのかわからなかったので、あまり多くを語らなかったのだという。
診察室に入り、昨日から今日の様子を先生に伝えると、昨日と同様な器具を使った触診を行った。昨日よりはだいぶよくなっているが、まだチェンバーに入った方がよいということになり、ちょうど急患が運ばれてくるところなので、その人と一緒にチェンバーに入るようにといわれた。
自分が木綿の服に着替えている間に、その急患が運ばれてきたようだった。そういえば、行きのタクシーの中で、救急車が南下していくのが見えた。それだったのだろうか。とにかく彼女の嘔吐の音が聞こえてきて、それを聞くだけでこちらも気分が悪くなってくる。先生にそのことを告げると、彼女はチェンバーに入って酸素を吸えばよくなるはずだと教えてくれた。
チェンバーに入ると、すでに急患の人が昨日自分がいた位置に横たわっていた。苦しそうにもがいているのが見えるとこっちも気分が悪くなってくるので、彼女のことは一緒に入っているファニータに任せて、自分は体育座りをして急患の彼女の頭と対角の位置に座るようにした。自分が腰掛けるや否や、ファニータが早速扉を閉めた。彼女は昨日が初めてのチェンバー入りということだったが、今日は任せろといわんばかりに落ち着いて積極的に動いている。急患の彼女が嘔吐したものをてきぱきと処理したり、酸素マスクをいつでも装着できるような位置においたり、自分の座る位置を毛布や枕で整えてくれたりと、黙って黙々と仕事をこなしている。
60フィート、すなわち18mの水深と同じ圧力まで空気圧が高まったところで早速酸素を吸入するように促された。昨日一度行っているので、要領はわかっているとはいえども、息をするたびにスターウォーズのダースベーダーのようなスーハースーハーいう音は、やはり聞いていて気分のよいものではない。しかし、慣れたせいか、酸素を吸った後の気持ち悪さはもうなくなった。20分間の吸入の後、5分休み、再び20分間の吸入に入ったかと思うと、今度は早くも別の部屋に移動するという。二日連続で5時間尾チェンバー入りということはなく、5時間行った翌日は、その半分くらいで済むということを昨日ネットで調べて確認していたので、なるほどとおもい、はやる心を落ち着けてひたすら酸素の呼吸を繰り返した。二回目の酸素吸入のときに、今までスイッチが入っていなかったプロジェクターの映像が、昨日と同じようにチェンバー内に映し出されたが、例によってどうも映像を見る気にはならなかった。
2回目の吸入が終わらないうちに、扉が開いて、入り口に近い方の部屋に移動することができた。今度はここでイサベルが控えていて、彼女が酸素マスクや、耳のプロテクターの装着の手伝いをしてくれる。彼女はファニータよりも経験があるので、マスクやプロテクターの装着が短時間で確実に行える。自分の方もここまでくると慣れてきたので、チェンバー内で足をくんだり伸ばしたり好き勝手な格好をして、くつろげるようになった。2回目の吸入が終わったところで彼女が話しかけてきて、何歳だと尋ねるので、自分の年を述べると、なんと彼女も同い年だという。イサベルは15歳で結婚し、16歳で第一子の娘さんを生み、現在上から20歳、17歳、14歳、7歳の娘さんたちがいるのだという。昼間はこうやって、Paramedic の仕事をし、夜中は 12 時から 7 時までイルカと泳げるプールでの警備の仕事をしているのだそうだ。彼女のパワーと陽気さにはまったく敬服する思いがして、自分が幼く思えてきた。
そうこうするうちに、3回目の吸入もおわり、4回目はイサベルも酸素吸入を行った。こうなるともうすぐ終わりが近いということである。こちらの部屋は映画の上映も何もないのだが、気分的にはもうすぐ終わるという期待感からか、居心地はよく思えた。
やがて吸入が終了して、扉が開くと妻とオペレーターのエルネストが立っていた。治療が終わって、この二人に会うととても心が安らぐ。昨日と違って、今日の気分はとてもよく、なんだか体内から力がわいてくるような気がした。腕の違和感もなくなり、なんだか通常の体に戻ったような感じがした。
着替え終わった後、昨日の Padilla 先生はいなかったので、別の Garcia 先生にみてもらった。彼曰く、今日からもうアクティブに活動してよい、お酒も飲んでいいというアドバイスをもらった。ところが診察室から出たところで、Padilla 先生に会い、今日は気分がいい、今 Garcia 先生に今日はもうちょっと活動的になってよく、運動もしていいといわれたというと、「ほどほどにしなさいね」と言われた。この辺のアドバイスは、医者によって異なるということだろうか。
エルネストとともに、チェンバーの操作を行うフリオが、保険屋と DAN にかけあってくれていたのだが、どうも保険屋は病院側に直接お金を払わないと主張しているらしい。同じ Blue Cross の保険といえども、テキサスとカリフォルニアでは扱いが違うらしく、テキサスの方では保険会社側が病院に払って、必要とあれば患者が足りない分のお金を保険会社に払うということができるが、カリフォルニアの場合はそれができず、患者が全額をまず払い、必要な資料 (請求書、レシート、医者の診断書)を集め、申込書とともにそれらを提出し、その申請が許可されたら、患者にお金が戻ってくる、もしそのお金が全額でない場合には、差額を DAN が払うように手配しなければならないのだという。
フリオが提示した請求額を見て、ある程度の覚悟をしていたが、かなりびっくりした。百万円には届かなかったが、レートが悪ければそのくらい行きそうなくらいの額である。その場にあった電話を借りて、銀行のカスタマーサービスに電話して、銀行側に「今かなりの額の取引が行われるので、承認してほしい」と頼み、「今から2時間以内の取引を承認するようにする」としてくれたので、支払いはひとまず終えることができた。しかし今の時点では明日チェンバーに再び入るかもしれないので、出費がこれで終わるかどうかはわからない。
病院を出てから、Chedraui に買い物に行った。ここでバナナとぶどうとパンと水を買っておき、明日の朝食にすることにした。ホテルでのビュッフェスタイルの食事は最初のうちはよかったが、だんだん飽きてきた上、朝食でさえも一人当たり12ドルほどするので、結構な出費になってしまう。Chedraui で買い物すれば、いくらパンを買っても $2 から $3 くらいですんでしまうので、とてもありがたい。先ほど巨額の出費があったばかりなので、こういうところから工面していかなくてはならない。幸い、このスーパーで買うものは、果物をのぞいてどれも普通のアメリカの店で買うものよりもおいしいので、安心して安いものが買える。果物に関してはやはり新鮮なカリフォルニアのものに慣れてしまっているのか、さすがにオレンジやメロンはあまりおいしくなかった。しかしバナナはさすがにおいしい。
ホテルに帰ると、Garcia 先生に少しアクティブに活動した方がいいといわれたものの、なんだか疲れた気がした。少しくつろいだ後、ホテルのプールで水浴び程度に過ごすことにして、夕刻どきを涼んだ。
少しだけだが泳いだせいか、空腹感を覚えてきたので、何かきちんとしたものを食べたいと思った。しかしプールサイドでやっているビュッフェでは元が取れるほどたくさん食べられる自信がない。ホテルの二階にレストランがあることを思い出し、そこでスパゲティーを食べることにした。ミートソーススパゲティーが、チップも含めて $10 というリーズナブルな値段で食べられた上、味もなかなかよく、満足のいく食事ができた。
食事の後、ロビーでメールをチェックして、寝ることにした。