昼休みに同僚の M 氏から、彼の妹の仕事について聞いた。彼女はボストン美術館で絵画の保存・保護に勤めているのだというが、そのプロセスが興味深い。
何百年にも渡って代々伝えられてきた絵画は、展示されている間に劣化してしまう。美術館内の光や人々の呼気から発せられる湿気が化学反応起こし、当初の色合いや艶、量感などが年月を経て変わってしまう。また、他の美術館にて一時的に展示する場合などには、どうしても輸送に伴う物理的なダメージも発生してしまうだろう。
こうした絵画を修復するにあたって、気をつけなければならないのは、現在ある物質や着色技術が何百年と保たれるとは限らないということである。すなわち、現在世の中にある石油化学製品は、長い年月を経てどう変化が生じるかということが検証されていないのである。したがって、修復作業をするにあたっては、その作業が未来の進んだ技術によって置き換えられるようにアンドゥ、すなわちやり直しが出来るようにするのだそうだ。これは想像力と忍耐力の勝負になるのではないかと思った。
つまり、これまでの統計から、過去何百年に渡って使われた塗料や油脂がどのように化学変化を起こしてきたかを見積もることはできる。しかし、今後未来に渡って現段階で存在する物質を使うとその効果が将来どうなるかということはある程度勘が必要とされるだろうし、言い換えれば、描かれた時点での絵画の状態と、現段階との差分をとることはできる。しかしその差分を埋め合わせる作業を現在の技術で行ったとしても、今後それがどう変化していくかは、まさに想像力を要する。また、近年行われた修復作業がこれまでの間にどんな変化を起こしてきたかを調べるという忍耐力を要する作業も必要だろう。
しかし逆に言えば描かれた当時の画家の筆づかいや癖を見抜いて、それを再現させ、未来の人々にもそれを伝えるというのは興味深いし、崇高な作業であるともいえる。そう考えるとこうした人類全体で共有できる資産を大切に保存・保守しようとしている人々には、敬意を抱かざるを得ない。



